山下洋輔(7)
2008-10-11


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7回目最終回

いよいよ本番直前です。今、前日のリハーサルに向かう途中の新幹線の中でこれをMacBookで書いています。PHSの発信機をつけてどこからでも通信もできます。携帯電話も持っていて最近ようやくメールも写メも出来るようになったのですが、こちらは滅多に使いません。

さて「Explorer」の最終楽章ですが、これはまさしく終末を含む内容になりました。そのアイディアを得た瞬間ははっきり覚えていて、それはパリのホテルの部屋で夜中に目が覚めた時です。パリには友人の画家松井守男の個展見学の為に来ていました。「ベルネム・ジュンヌ」というゴッホの個展を最初にやったという名門画廊で、いつものように松井の絵から大きな刺激を受けました。翌日には郊外に住む従兄弟を訪ねました。この従兄弟の四柳与志夫は生命科学の研究でフランスの研究所に来て日本に帰らず80歳を超えています。長老として尊敬されノーベル賞級の研究をしています。会ってすぐに分子生物学や素粒子や宇宙やビッグバンの話を聞かせてもらいました。ビッグバンの想像上の写真というものがあることも知りました。この時に、昔初めてSF小説に出会った時のどきどきする気持ち、センス・オブ・ワンダーがあらためて強く甦ってくる感覚を覚えたのです。

これがちょうど第3楽章を構想している時期だったのですね。さまざまな刺激が夢の中で再構成されたのでしょうか。夜中に目が覚めた時にはっきりとしたアイディアをつかんでいました。それは自分が宇宙に飛び出し、旅をして、さまざまな生物に出会い、やがて時間をさかのぼってビッグバンに遭遇して消滅する、というものです。そのさまざまな生物を、木管、金管、弦、打楽器というオーケストラの要素に対応させて、夫々としっかり出会って対決しようというアイディアも同時に得ました。

当然、ビッグバンとの遭遇と消滅が大クライマックスになりますが、ではその後はどうなるかという問題が残りました。

ものすごい偶然ですが、ちょうど今、日本人学者の受賞で話題になっているノーベル物理学賞のテーマが「ビッグバンのあとにどうして我々の宇宙は存続しているのか」というものだそうですね。それなんですね!

私も同じテーマで悩んだのです!! そして、ある解答を提示しました。

そのことをお話しする前に第3楽章のストーリーをお伝えしておきます。竹林の中を通り過ぎる風の音のようにピアノとオケが浮遊し、やがてピアノがテーマを提示します。このテーマは「展覧会の絵」のプロムナードのように場面の転換部に必ず出てきます。

やがて4発のロケットブースターの炸裂によって私は宇宙に放り出されます。途方にくれているところに、まず出てくるのが木管楽器による「猫生物」です。このテーマは前にも触れた私のニューヨーク・トリオ結成20周年記念アルバムのタイトル曲「トリプル・キャット」です。次に弦楽器による無窮動のような「地底生物」に出会います。次が金管楽器でここでは素粒子や原子核がはじける光景を目撃します。そして最後に疾走する打楽器生物に出会い、やがて時間をさかのぼってビッグバンに遭遇し消滅します。 

さてその後どうなるかですが、ビッグバンによってこの宇宙が始まったというのが定説ですから、次の瞬間には宇宙ができ始めなければならない。どうやってこしらえるのか。ここで、もはや頭の中がミクロマクロ極小極大、粘菌増殖素粒子消滅、猫にミミズにバクテリア、星雲爆発重力崩壊、という脳神経シナプス暴発状態になっていた私は、とんでもないことを考えました。それは今まで作った自分の曲ですべてこの世を満たしてしまおうというものです。あきれた誇大妄想です。「この世は自分が作った」と言いはっている人と同じかもしれません。しかし、どのような想像も創造もできる音楽の世界だからこそこれは許されると信じて突き進みました。


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